みんなで作る粘土猫

あの夏拾ってきた仔猫が家族になった話

  
チビ
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あの夏拾ってきた仔猫が家族になった話

今から30年以上前になるが、うちにもねこがいた。ある夏の朝、近くのアパートの階段下で仔ねこがか細い声でニーニーないていた。まだ目が開いていないその仔ねこを思わず抱き上げうちに連れ帰ってしまったのだ。痛々しいほど小さくて、ヨタヨタしている仔ねこに、姉とふたりでミルクをあげたり離乳食を作ったりしているうちに、気がついたら我が家のねこになっていた。名前は、小さいのでチビ、チビと呼んでいるうちにそれが定着してしまった。

我が家ではそれまでねこは飼ったことがなく、ましてや生まれて間もない仔ねこ。どう扱っていいかわからず、ちゃんと育つか不安なわたしたちの気持をよそに、チビはすくすくと育ってくれた。日中は母とふたり(?)だけになるので、なにかというと母の後をついて回り、母にべったりのおばあちゃん子になってしまった。

しかしチビはかなり向こうっ気が強いヤツだった。少年ねこになったチビは、外に出たいと要求するようになった。縁側のガラス戸に向かって「開けてぇ」と泣く。開けてあげると一目散に庭に出て行く。数時間後には「帰ってきたよぉ」とガラス戸をひっかく。ちゃんと帰ってくるから「よし」とするかと許可。

毎日、庭をパトロールするのがチビの日課となった。どうやらチビは庭を守りたかったらしい。他のねこが自分の庭に入ってくると、一目散で外に出て、「出て行け~」と威嚇しケンカをふっかける。鼻っ柱は強いのだが、腕っぷしは弱い。たいてい一発くらってしまう。それでも、「追っ払ってやったぜぇ」と意気揚々と帰ってくる。そのたび生々しい傷にヨウチンを塗ってやっていた。

チビの少年期が終わるころ、母が亡くなった。自宅で葬儀をしたのだが、通夜と告別式の2日間、家の中からも庭からもチビの姿が消えた。葬儀すべてが済んだその夜、ちゃんと家に戻ってきた。それからは父とわたしとチビとの三人暮らしになり、チビは昼間一人で留守番する生活に変わった。程なく姉に息子が誕生し遊びにきてくれると、チビは兄貴風を吹かすようになった。姉の息子には耳を触られても怒らない。食事をするときは隣に陣取る。庭で遊ぶときはそばでスフィンクスのように座る。姉の息子を見守っているかのように見えた。

こうしてチビのことを思い出してみると、どうやらわたしたち家族はチビを擬人化して暮していたようだ。チビは言葉こそしゃべらないが、チビが見せるしぐさや行動はとても雄弁だった。わたしたちはチビの気持を勝手に推察して、チビを自分たちに寄せて、喜んだり、笑ったり、時には悩んだりもした。家族の一員として暮していたのだと思う。そしてチビと暮さなければ知り得なかったことをたくさん経験させてもらった。楽しかったなぁ。幸せだったよ。チビも幸せだったかねぇ。

[アイキャッチ画像]
姉の息子が3,4歳のころのチビとのショット。チビの仔猫時代の写真はない。
仔ねこ時代は育てることに夢中で写真を撮る余裕がなかったのだ。

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